<1>
左手の腕時計をチラリと横目で見ながら、ユキは進と生活を共にしている部屋へとマンションの廊下を小走りに歩いていた。
時間は19時14分を指している。進と約束した時間から約15分の遅刻だ。
(いけない・・・。15分の遅刻だわ。進さんはもう帰ってるかしら?怒ってないといいけど・・・)
ショルダーバッグに入っている部屋のカードキーを歩きながら探すが、慌てている為かなかなかみつからない。探し出す前に部屋の前についてしまった。
やっとの思いでカードキーを取り出し、キーホールに差し込みパスワードを入力する。
いつもは何とも無いこの一連の作業が、今日は気持ちが急いている為か、ユキにはまどろっこしい作業に思えた。
ガチャッという音とともに錠が解けた。急いで玄関の扉を開け、進の靴の有無を確認する。
玄関には進の靴が脱ぎ捨ててあり、進の帰宅を告げていた。
(あ・・・やっぱり・・・)
ユキは暫く進の脱ぎ捨てた靴を見ていた。
(そうよね、帰ってきてるわよね。今朝、私があんなに『今日は絶対に早く帰ってきてね』って念押ししたんだもの・・・。それなのに私の方が遅刻するなんて・・)
ユキは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら、靴を揃えて脱ぐのももどかしい様子で部屋に上がると、進が待っているであろうリビングへ向かった。
リビングのドアを開けると、ムスッとした表情の進がソファーに座り、書類に目を通している姿がユキの目に入ってきた。当然こちらは見ない。
(・・・不機嫌・・・だわ・・・)
「ただいま。ごめんなさい、遅くなって」
ユキは申し訳なさそうな口調で言いながら、ソファーに座っている進の傍に立った。
進は書類から一瞬目を離し、チラッとユキを見たかと思うと、また書類に視線を戻し、いつもより低い声でユキに言った。
「遅いぞっ。15分の遅刻だ」
「ごめんなさい。今日は絶対に早く帰ろうと思って頑張ってたんだけど、帰り際に井上参謀に捕まっちゃって・・・」
『井上参謀』と聞いた途端、進は見ていた書類をテーブルの上に無造作に置き、目線をユキに移した。
「井上参謀?あ〜、あいつか。あんなヤツ適当にあしらって帰ってくればいいだろう?」
進の不機嫌な表情が、なお更険しくなり、ぶっきらぼうに答えが返ってきた。
「そういう訳にはいかないわよ。井上参謀は、今私が担当している新規プロジェクトのリーダーですもの。・・・・でも、こんな時期に新規プロジェクトの立案なんてしなくてもいいのに。しかも年内でまとめろ、なんて酷いわよね」
ユキは困ったような表情を浮かべながら、『私だって大変なのよ』と言いたげに答えた。
「その新規プロジェクトも井上参謀が提案したんだよな、確か。俺達よりも3つくらい年上なんだろう?それで参謀なんだから、やり手だよな」
「ええ、有能な人よ。指示も的確だし」
「それで?」
「え?」
「・・・だから・・・その井上参謀が、君に何をしろって言ったんだ?」
「あ・・・明日の会議の議題で追加したい件があるから、そのデータを揃えて欲しいって・・・」
「明日の会議のデータを揃えて欲しい、だって?」
ユキが言った言葉をゆっくりと繰り返すと、進はそれまで前屈みで座っていたソファーの背に寄りかかり、大げさに溜息をついた。
「・・・ユキはそのプロジェクトのチーフだったかな?いや、サブリーダーだったか」
「いいえ・・・スタッフの1人よ」
「スタッフの1人ぃ?あぁ、そうだったよな。それならユキだけじゃなくて、他のスタッフも・・勿論残って作業したんだろう?」
「あ・・・いいえ・・あの・・私・・だけ・・」
「ユキだけ?」
「今日はクリスマス・イブだし・・家庭を持っている人もいるし・・それで・・」
一瞬気まずい空気が流れた。
「ユキだけにわざわざデータを揃えるように言ったのか?そいつ・・ユキを口説こうとしたんじゃないのか?今日は・・クリスマス・イブだもんな」
「ち、違うわよ・・・」
ユキは困った表情を浮かべ、首を傾げた。
「やぁね、妬いてるの?」
新規プロジェクトの計画が立案されてから、井上参謀のプロジェクトチームに配属になったユキは、当然の事ながら井上参謀と居る時間が長い。
独身の、しかも年もあまり違わない男とユキが居る時間が長いことが(それが仕事であっても)、進は正直なところ面白くなかった。
「バ・バカな。そんなんじゃないに決まってるだろう?あんなに人に『今日は絶対に早く帰って来い』って言っておきながら遅刻するから・・。俺は時間に厳しいんだ。ユキだってわかってるだろうっ・・だから・・・ただ、それだけだ」
進は痛いところを突かれたのを見透かされないように、顔をユキから背けてバツが悪そうに吐き捨てた。
ユキはそんな進の態度にクスッと笑うと、まるでやきもち妬きの駄々っ子の男の子をあやすように、ソファーの傍に膝をつくと、進の頬に顔を寄せてチュッと口付けた。
「私が愛してるのは、あなただけよ」
『心配しないで』そんな気持ちを込めて優しく囁いた。
進もユキの言葉に表情を緩めると、再びユキの方に顔を向けた。
「・・ごめん・・ちょっと言い過ぎた・・俺も愛してるよ」
ユキの背中に手を回し、隣に座るよう促すと、身体を引き寄せユキの唇に自分の唇をあわせ、暫しついばむようにユキの唇を味わった。
お互いにキスに満足して唇をそっと離すと、優しく微笑みあった。
ユキは進の首に腕をまわし、甘えるように抱きつきながらあらためて「遅れてごめんなさい。ただいま」と言った。
進は優しくユキの背中に手を回しながら「お帰り」と答えた。
「あぁ、そういえば、デリバリーサービス、届いてるぞ」
思い出したように、ダイニングテーブルの方に顔を向けた。
ユキははっとしたように、進から身体を離すと、進の視線の先を追った。
テーブルの上には、大きな正方形の銀色の保温ケースが置かれていた。
「そうだった、忘れてたわ。あれ、いつ頃届いたの?」
「ユキが帰ってくる少し前。まだ届いたばかりだよ」
「あぁ、良かった。それならまだ冷めてないわね。ごめんなさい。すぐに食器に移して、食べられるようにするわ」
ほっとした表情で素早く立ち上がり、ダイニングテーブルに向かおうとするユキを進が呼び止めた。
「待てよ。まず、着替えてからの方がいいんじゃないのか?まさか制服のままでクリスマスディナーを食べるわけじゃないだろう?」
え?という表情でユキは自分の姿を見下ろした。
時間に遅れたユキは着替えもせず、自分のバッグだけを更衣室のロッカーから取り出して、防衛軍司令本部を飛び出して来たのだった。
「やだ。そうだったわ。急いでたから・・・・。ごめんなさい。すぐにきがえてくるわ」
帰ってきてから慌て通しのユキに進がクスリと笑った。
「そんなに急がなくてもいいよ。忙しかったんだろう?少し落ち着けよ」
その笑顔がユキには逆に申し訳なく思えた。
「ごめんなさい。こんなに忙しい時じゃなければ・・・あなたが地球に帰ってて一緒に過ごせるクリスマス・イブだから手料理をご馳走したかったのに・・・デリバリーサービスで済ませちゃって」
「いいんだよ。外食を断ったのは俺なんだし、忙しいのも別にユキが悪いわけじゃないんだから。俺は二人でゆっくりとイブを過ごせればそれでいいんだよ。さ、着替えて来いよ。待ってるから」
「ええ、先に着替えてくるわね」
ユキはチュッと進の唇に軽くキスをすると、進の脇を通り抜けて、クローゼットのある部屋へと向かった。
<2>
大きく胸元の開いた真赤なワンピースに着替えたユキは、進の待つリビングへと戻った。
「お待たせ。すぐにディナーの用意をするわね」
その言葉に、再び目を通していた書類から目を離してユキを見た進は『おや?』という表情でニヤリとして立ち上がった。
「今夜は随分お洒落なんだな」
「だって今夜はイブですもの。少しは気分を味わいたいじゃない?」
ニコリと笑ってウインクするユキの胸元には、今年のホワイトデーに進から買ってもらったダイヤのプチネックレスが輝いている。
「そうか・・外で食べた方が良かったか?」
「ううん、いいの。二人っきりで部屋で祝うイブも素敵だわ」
「それならいいけど・・・・なぁ、ユキ。俺もこんな部屋着じゃなくて、それなりの服に着替えてこようか?いくらこの部屋でディナーと言ったって、釣り合いがとれないだろう?」
「いいの、いいのよ。だって堅苦しいのが嫌いで、二人で部屋でイブを祝いたかったんでしょう?進さんはそのままでいいわよ」
ユキは進の気遣いが嬉しくて、笑顔で答える。
「・・・そうだけど」
「着替えなくてもいいの。進さんはそのままでも充分素敵よ」
「す・・素敵って・・」
進はユキから『素敵』と言われたことが照れくさく、それを隠すように突っかかりながらも言葉を続けた。
「そ、そうか?・・いや、ユキがいいって言うなら・・いいけど」
本当にいいのか?という表情で雪を見つめたが、ユキが本当にそれで満足している様子なので、気を取り直して話を続けた。
「ユキ。似合ってるよ、その服。だけど俺としてはこのまま後のファスナーを下げて脱がせて、ベッドへ連れて行きたい気分なんだけど・・・」
少しふざけた口調で言いながら、進はユキの身体を引き寄せ背中に手を回すと、ワンピースのファスナーに手をかけた。
ユキは少し慌てて進の身体を両手で向こうへ押しやった。
「あん。ダメよ。まだ、ディナーも食べていないでしょう?後から・・・ね?」
少し頬を染め、苦笑いしながら、困った人ね、という顔で進を見つめる。
「ちぇっ。おあずけか。ま、確かに腹がへった。“腹が減っては戦はできぬ”って昔から言うからな。ディナーを食べてからのお楽しみにするか」
「やぁね〜、“戦”だなんて言って」
ユキは進の言葉にクスクス笑い出した。
「そうと決まれば、ディナーとするか?」
「ええ、すぐに支度するわね」
「俺も手伝うよ」
「え?進さんが手伝ってくれるの?珍しい。これも『イブ』のなせる技かしら?」
「一秒でも早く『お楽しみ』タイムが来るようにね」
「もう、エッチ」
「嫌いか?」
そう言いながら進が悪戯ぽい笑みを浮かべてユキの顔を覗きこんだ。
「え?・・・」
ユキは返答に困って、黙ったまま頬を真赤に染めたのを見て、進は声を出して笑い始めた。
「さ、支度してディナーにしようぜ」
「そうね」
まだ頬をリンゴ色に染めたユキが、ニコリと微笑んで戦闘開始、とでもいうようにテーブルに向かって歩き始めた。
<3>
テーブルの上のデリバリーサービスの保温ボックスの蓋を開けると、美味しそうなご馳走が色とりどりに
詰められていた。
「わあ、美味しそう」
「うん、美味そうだ」
ボックスの中の料理に、二人は『大満足』という表情を浮かべる。
「美味しいって評判のお店に注文したの。とっても人気があるのよ」
サーモンのマリネ、ビーフシチュー、鳥の丸焼き、サラダにパン。
どの料理もクリスマス用にプリントされた使い捨ての皿や容器に収められていたが、やはりこのままでは味気ない。
ユキは食器棚から来客用の食器を取り出すと、進に保温ボックスを持ち上げてもらって、手際よく食器に盛り付けなおし、テーブルに並べた。
「今日はお客さん用の食器を使うんだな?」
「そうよ。クリスマスですもの」
湯気を立てて美味しそうな匂いの料理達を前に、ユキはご機嫌な様子だ。
(ふ〜ん、クリスマス・イブってのはそんなに大切なものなのかねぇ?)
ユキの満足げな顔と来客用の皿に盛られた料理を交互に見ながらそう思ったが、ユキのウキウキした様子に進の機嫌も良くなる。
「次は何をいたしますか?」
進はおどけた調子でユキに次の手伝いの指示を仰いだ。
「そうねぇ・・進さんはツリーのライトをつけてくれる?あ、それから、今夜の為に買っておいたキャンドルがサイドボードの上に置いてあるから、テーブルの中央に置いて火をつけて」
「了解!」
進がユキから頼まれた事をしている間に、ユキはこの日の為に買っておいたシャンパンを冷蔵庫から取り出し、テーブルに並べられた進のグラスの横に置いた。
進がキャンドルに火を灯すと、炎がかすかに揺らめいて段々とクリスマスらしい雰囲気になってきた。
ユキはオーディオに向かい英語のクリスマスメドレーを、ボリュームを小さくしてBGMにかけた。
「次は?」
「これで終わりよ。そうだ。灯りを暗くしましょうよ。せっかくキャンドルを灯してるんですもの」
「そうだな」
リモコンで照明を薄暗い状態に調節すると、部屋の雰囲気はさっきとは比べ物にならないほどのムードを醸し出した。
部屋の隅に置かれたツリーの、色とりどりに点滅する電球が部屋の中を緑や赤や青に照らし、テーブルの上のキャンドルが料理を仄かに照らす。
「なんだかレストランに居るみたいね」
「あぁ、本当だな。俺たちの部屋じゃないみたいだ」
二人は部屋を見渡すと見詰め合って微笑み、向かいあって椅子に座った。
「シャンパンを開けるぞ」
「ええ、お願い」
進はシャンパンを手に取ると、蓋に親指をかけグッと力を込める。
ポン!と大きな音をたててシャンパンの蓋が弾け飛んだ。
再び二人で微笑みあう。
はじめに進がユキのグラスにシャンパンを注ぐ。
お返しとばかりに今度はユキが進のグラスにシャンパンを注ぎ、シャンパンをテーブルの中央に置いた。
二人がそれぞれのグラスを手に取りキャンドルの横にかざすと、中のシャンパンが揺れ、炎に照らされてキラキラと波打つように輝いた。
「メリークリスマス。進さん」
「メリークリスマス。ユキ」
カチンと音を立てて乾杯した。
ユキは、幸せよ、という表情で進を見つめ、シャンパンに口をつけた。
進もユキを愛しく見つめながら、シャンパンに口をつけた。
二人のクリスマス・イブは今始まった。
<4>
元ヤマトクルーの仲間の話や、進の趣味の植物の話、他愛のない話などで会話を楽しみながら、二人は1時間くらいで、目の前の食事をたいらげた。
「ご馳走さまでした」
「ご馳走さん。美味かったな、料理」
「ええ、とても美味しかったわ。もうお腹一杯よ。食べ過ぎちゃって苦しいくらい」
ユキは自分のお腹に手を当てて笑った。
「そんなに食ったか?じゃあ、食後の運動・・・するか?」
「食後の運動ってなに?・・・・あ・・・」
ユキが進の言わんとする事を理解して、恥じらいの表情を浮かべた事が、うす明かりの中でもはっきりと分かった。
進がニヤリと笑って立ち上がり、ユキに近づこうとする。
「あん。まだダメよ、片づけがすんでないわ」
「せっかくクリスマス気分が盛り上がってるんだから片付けなんかほっとけよ。後からでもいいんだろ?」
「そういうワケにはいきません。もう、今日の進さんは狼ね」
「イブの夜は男は狼に変身か?それもいいかもしれないな」
楽しそうに答える進に、ユキは、困った人ね、という笑みを浮かべた。
「狼さんもいいけれど、それは片づけがすんでからよ。私は片づけをしているから、進さんはシャワーでも浴びてきて。帰ってきてからシャワーはまだなんでしょう?」
「ああ、大人しく子羊さんの言うとおりにシャワーでも浴びてくるかな」
仕方ないという表情を浮かべながら進はユキの言葉に答える。
「やあね。“子羊”なんて言って。私は本当に食べられちゃうみたいじゃない?」
「頂くさ。後からな?」
「もう・・・。エッチ」
「ははは。さて、部屋を明るくするぞ」
そう言って進は照明のリモコンを手に取ると、部屋の照度を元に戻した。
さっきまでのレストランムードの部屋から一変して、二人のいつものくつろぎの空間に戻る。
「なんだか、途端に現実に戻るな」
「ふふ、本当ね。片付けをするわね」
「ああ」
ユキがテーブルの皿を重ねて片付け始めたので、進はバスルームへと向かった。
<5>
進がバスローブ姿でリビングに戻ると、ユキはすでに片づけをすませ、カーテンを少し開けて外を眺めていた。
「どうかしたのか?」
『外で何かあったのだろうか?』というニュアンスで進はユキに問いかけた。
ユキは進の方には視線を戻さず、外をうっとりとした目つきでジーっと眺め続けていた。
「街路樹に飾られた電飾のイルミネーションが綺麗だな、と思って見てたの」
『え?どれどれ?』といった風に進はユキの身体を後からそっと抱きしめて、ユキの顔に頬を寄せて同じく窓の外の景色を眺める。
11月の中旬から街路樹にはイルミネーションが輝いているので、今初めてその光景を見るわけではないのだが、クリスマス・イブの夜、ユキにはその光景が殊更綺麗に見えるのだろう、ジーッと見つめたまま目を離さない。
ユキは自分を抱きしめる進の腕に手を添えて、体重を預けた。
「街を歩く人もね、表情が見えるわけじゃないけれど、なんだか皆幸せそうに見えるの。ケーキを持って歩く人や、プレゼントらしい紙袋を持って歩く人・・・皆、幸せそうだわ」
「それは、ユキが今幸せだからそう見えるのかな?」
「・・・そうかもしれないわね」
「俺もユキにプレゼントがあるんだけどな」
「私もよ。でも、クリスマスのプレゼントは今夜サンタさんが寝ている間に配るものよ。明日にしましょう?」
「・・・幸せかい?」
真剣な口調の進に、ユキは進の方に体を向き直し、微笑んだ。
「もちろんよ」
ユキは進の唇に軽く唇を合わせた。
それを合図にするように、進はユキの身体をギュッと背中から抱きしめ、合わせた唇を押し開き、自分の舌をユキの口の中に割り込ませた。
ユキの口の中を進の熱い舌が自由に動き回る。ユキもまた積極的に進の舌に自分の舌をからめる。
お互いがお互いに積極的に唇を求めあう中で漏れる、「ん・・・」というくぐもった声にならない声だけが部屋の中に聞こえる。
お互いを求めてやまない気持ちが、相手の唇を味わう事で少しずつ満たされていく。
進は手に当たったユキのワンピースのファスナーを掴むと、一気に下までファスナーを下げ、服を脱がせようとした。
ユキは慌てて唇を離すと、抱きしめられている進の腕を解こうとした。
「あ・・待って、シャワーを浴びてくるから」
「待てない。このままベッドルームへ連れて行く」
そう言ってユキを抱き上げようとする進を、ユキは優しく制した。
「すぐに済ませてくるわ。だから、ベッドルームで待ってて。ね?」
進は気分が盛り上がった所を中座させられて少し不満な気持ちではあるものの、今日の主役はなんとなくユキであるような気がしたので、素直に引き下がった。
「分かった。ベッドルームで待ってるから、早く来いよ」
「ごめんなさい。すぐに戻るから」
再び進の唇にチュッと口付けると、背中のファスナーが開いたままのずり落ちそうなワンピースの肩を、片手で脱げないように押さえながら、シャワールームへと急いだ。
進はキッチンへ行き、グラスに冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを注ぐと、火照った身体をさますようにそれを一気に飲み干し、ベッドルームへと向かった。
<6>
進が裸のままベッドに入り、うつ伏せの状態で蛍光灯の明かりだけで植物の本を読んでいると、ほどなくしてバスローブ姿のユキがベッドルームに入ってきた。
「お待たせ」
進は、ユキに微笑みかけると、植物の本をベッドのサイドテーブルに飾られた小さなツリーの横に置き、片手でベッドカバーを少しめくり『おいで』と瞳で訴えた。
ユキはベッドに近づくと、パサリとバスローブを脱ぎ捨てて、ベッドの進の横に身体を滑り込ませた。
進は待ってましたと言わんばかりに、さっと上半身を起こし、ユキの上に覆いかぶさると、再び唇を激しく求めた。
ユキもまた進の背中に手を回し、背中を摩るように手で愛撫する。柔らかなユキの掌の感触が、ユキを求める進の気持ちをいっそう駆り立てる。
「愛してるよ、ユキ」
「愛してるわ、進さん・・・あ・・・」
手でユキの豊かな乳房を揉みしだきながら、耳たぶを軽く噛み、舌で耳の中を愛撫する。
ユキは身体をくねらせて快感の中に身を委ねる。自分の秘所がすでに濡れて愛液が溢れている事が自分でも分かる。
「あぁん・・・あぁ・・・・」
ユキの喘ぎ声に、進の愛撫も段々とエスカレートして、唇を耳から首筋へと少しずつ移動し、乳房に到達すると、舌でグルリと乳首の周りを舐め、口の中に含むと舌でユキの乳首を転がしたり吸ったりして、ユキの乳房全体を存分に口で味わいながら手は秘所へと移動した。
ユキが自分でも濡れていると自覚している通り、そこはもう愛液で溢れていた。
進はユキの愛液を自分の指にたっぷりつけると、クリトリスを優しくこすった。
「あふ・・・ん・・・あぁ・・・・」
ユキの身体が大きくしなり、髪が乱れ、ユキの顔にかかる。
そんな乱れ髪のユキの、顔も身体も仕草も、進にはすべてが愛しく美しかった。夢中でユキの身体を手と唇でむさぼった。
ぺチャぺチャという進の舌の音と、クチュクチュという秘所を愛撫する指先の音、そして進の荒い息つかいとユキの喘ぎ声。それだけが部屋の中で静かに響き渡る。
進の顔が次第にユキの秘所に近づくと、進は手でユキの足をグッと大きく押し開き、立膝にさせ、そこへ顔を埋め、秘所をまんべんなく愛液と共に味わった。
一通り、ユキの秘所を自分の口で満足するまで味わうと、舌の表面でユキの蜜壷からクリトリスを下から舐め上げ、次は下の裏側を使って、クリトリスの上から蜜壷をすーっと舐めた。
「ひぁ・・あぁ・・・」
初めての進の舌の裏側の柔らかな感触。
あまりの快感にユキの口から悲鳴とも似たような喘ぎ声が漏れた。
進は舌の表面と裏側を交互に使った愛撫を繰り返す。
ユキはザラっとした進の舌の表面の感触と、柔らかくつるっとした裏側の、交互に訪れる感触に快感の絶頂に達しそうになった。
「あ・・・もう・・・ダメ・・・このままじゃ、イっちゃう」
ユキは途切れ途切れに進に訴えた。
「いいよ、イっても。今夜は何度でもイかせてやる」
「そんなぁ・・・・あぁ!!」
ビクンと大きくユキの身体がのけぞり、一度目の絶頂を迎えた。
ユキの身体がビクンビクンと数回反応した後、ガクリと力が抜けた。
進はユキの秘所から顔を離し、身体を起こして移動すると、ユキの顔を上から満足そうに覗き込んだ。
「・・・・イった?」
「・・・うん」
はあはあと大きく息を荒げながら、やっとのように紅潮したユキが答える。
「今度は、私が・・・・」
ユキはゆっくりと身体を起こすと、進に立膝をつかせて大きくそそり立った進自身を手で掴み、パクンと口に咥えた。
「う・・・・」
今度は進が快感に顔をゆがめる。
自分自身を咥えて前後に顔を動かすユキを上から見下ろしながら、ユキの頭にそっと手を添えてその動きを助ける。今度はユキが夢中で進に奉仕した。
時折、口の中から進自身を出し、先端を舌で突付いたり、根元をぐるりと舌で舐めた。
ほどなく、進の快感も絶頂に近づいてきたので、進はユキに進自身を離すように告げ、ユキの身体をうつ伏せにし、膝をつかせ、尻を突き出させる格好にした。
「入れるよ」
進の言葉に雪はコクリと頷いた。
ズブっという感触で、ユキの蜜壷の中に進自身が奥深く入る。
「あぁぁ・・・・」
体に入った進自身の熱い感触に大きな快感の波が押し寄せる。ユキは思わずギュッとシーツを握り締めた。
進は始めはゆっくりと、そしてユキの息遣いを耳で確かめながら、徐々に動きを早めて行った。
パンパンという、ユキの身体と進の身体がぶつかる音が比較的大きく部屋に響く。
そんなに長い時間ではないが、一度絶頂を迎えたユキの身体は二度目の絶頂を迎える時が比較的早く訪れた。
「す・・進さん・・・もう・・・ダメ・・イきそう・・・あぁ・・」
「もう?・・・でも、俺ももう・・・さっきイきそうになったから」
「お願・・・い。来て・・・」
うつ伏せになったままのユキが進と絶頂の時を共にしたくて、せつなげに訴えた。
「分かった。・・・いくぞ」
進は腰を今までよりも大きく激しく素早く動かし、絶頂の時を迎えた。
パン!パン!パン!パン!という大きく短い音の連続のあと、一際大きな喘ぎ声と共に二人はベッドに崩れ落ちた。
ユキは、瞳を閉じて、全力疾走した後のようにハアハアと息をしている。
そんなユキを進は愛しそうに見つめ、ユキの髪をそっと撫でる。
「良かったよ・・・ユキ」
「私・・・も。ごめんなさい、私だけが2回もイっちゃって」
「いいんだよ。イかせるのも男の喜びなんだから」
ユキは優しく髪を撫で続けている進の腕に捕まって、自分の頬にすり寄せ、囁いた。
「愛してるわ」
「俺も愛してるよ」
二人は見つめあって微笑んだ。
暫くそうして二人で余韻の中に浸っていたが、ユキは突然、はっと何かを思い出したように、上半身を起こすと、窓のカーテンの方へ目をやった。
突然のユキの行動にワケが分からない進は、いぶかしげに聞いた。
「どうした?誰か覗いてたか?」
「え?」
「いや・・急に起き上がって、カーテンのほうを見るから、誰かが覗いてたのかと思ったんだよ。違うのか?」
真面目な顔で言う進の言葉に、ユキはぷっと吹き出した。
「やぁね、こんな高層階で覗く人が居るわけないじゃない。天気予報で今夜は雪になるって言ってたの。だから、そろそろ降り始めているかと思って・・」
「あぁ・・そういうことか」
ユキは進から身体を離すと、ベッドから起き上がり、バスローブを拾って身に纏い、窓に近づきカーテンを手で少し開いて外を覗いた。
「あ!」
ユキが歓声を上げる。
「進さん、雪よ。雪が降ってきたわ。ホワイトクリスマスよ」
さっきまでの女性の顔からうって変わって、無邪気な子供のような笑顔で進の方を振り返る。
進はそんなユキも可愛くて、自分もバスローブを身に纏うと、ユキの横に立って一緒に外を眺めた。
「本当だ。降ってきたな」
「イルミネーションと白い雪で街がとっても綺麗」
「ユキ。もしかして・・外を歩きたいのか?」
嬉しそうにジーッっと外を眺めるユキに『多分そうだろうな』と思いつつ進は優しく尋ねた。
「歩きたいわ。一緒に歩いてくれる?」
案の定帰ってきた答えはそれだった。
まるで子供でも見るような優しい表情で進はユキを見つめた。
「いいよ。行こうか」
ユキの顔がパアーっと喜びに満ちた表情になる。
「進さん、ありがとう!」
「ただし。先ずはシャワーを浴びて、風邪を引かないように暖かい格好で出かけないとな?」
「そうね、シャワーを浴びなくちゃ」
「一緒に浴びるか?」
ユキは照れたような笑顔で頷いた。
進はユキの肩を抱き、共にベッドルームを後にして、シャワールームへ向かった。
ホワイトクリスマスを楽しむために。
FIN